話す言語で「性格」が変わる?バイリンガルが持つ多面的なアイデンティティの秘密
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「第二言語を話しているとき、なんだか別人になったように感じる」――そんな経験はありませんか?
言語を切り替える瞬間は、まるで新しい自分をアンロックするようなものです。例えば、「スペイン語では陽気でユーモアがある」「ドイツ語では自信を持ってハキハキ話せる」「英語だと少し大胆になれる」といった感覚かもしれません。
もし心当たりがあるなら、それは決して気のせいではありません。
研究では、バイリンガルやマルチリンガルの方々は、使用する言語によってパーソナリティの異なる側面を表現することが非常に多いと示されています。これは、複数の文化の間で生活する人にとっては、ごく自然な「あるある」なのです。
まるで複数のアイデンティティを持ち歩いていて、話す言語に合わせてスイッチが入るかのよう。
今回は、なぜこのような現象が起こるのか、その理由を詳しく解説していきます。
言語とアイデンティティは深く結びついている
すべての言語には、固有のリズム、文化的理解、そして感情的なトーンが宿っています。言語を切り替えるとき、単に使う言葉を変えているだけではありません。世界と関わるために使用する「レンズ(視点)」を切り替えているのです。
バイリンガリズムに関する研究では、人は話している言語に応じて、異なる振る舞いをしたり、自分自身の説明の仕方を変えることがわかっています。
このため、多くのバイリンガル話者は、言語ごとに「まるで別人になったように感じる」と語り、言語を切り替えることが異なる文化的アイデンティティを活性化させると述べているのです。
言語は感情のスイッチになる
多くの人にとって、異なる言語は異なる感情を呼び起こすきっかけとなります。
母国語(第一言語)は、子どもの頃の記憶や家族との思い出と深く結びついています。一方、第二言語や第三言語は、海外での自立、旅の経験、あるいは人生の新しいスタートを連想させるかもしれません。個性のベースは変わらなくても、こうした感情的な背景が、あなたが異なる言語を話すときの気持ちのあり方に大きく影響します。
バイリンガルが持つ感情の働きに関する研究によると、人は母国語で話すときの方が、感情が強く揺さぶられる傾向があることがわかっています。
後から学んだ言語は、感情的な重み(しがらみ)が少ないため、より気楽で自由な感覚で話せるのです。これが、「第二言語だとなぜか大胆になれる」「落ち着いて話せる」「遊び心が出る」と感じる人がいる理由です。
話す言語一つ一つが、異なる感情の引き出しを開けることで、その時々のパーソナリティの多様な側面を生み出していると言えるでしょう。
文化が行動パターンを決める
言語というものは、私たちの振る舞いを左右する文化的なヒントに満ちています。
たとえば、遠回しな丁寧さを重んじる文化もあれば、ストレートな表現を好む文化もあります。ユーモアの感覚が変わり、ジェスチャーが変化し、さらには話す声のトーンや大きさまでも言語によって異なります。異文化心理学の調査では、バイリンガルは話す言語に応じて、自己認識を無意識のうちに調整していることが分かっています。つまり、それぞれの言語が、その言語に紐づいた文化的なルールや慣習へと私たちを自然に導いているのです。
この現象は、留学中や旅行中に特に実感しやすいかもしれません。
現地の言い回しを取り入れたり、新しいジェスチャーを真似したり、周りの人々の雰囲気に合わせてエネルギーレベルを調整したり。言語は、あなたがその文化と馴染むのを助け、その結果、あなたのこれまで見えなかった側面を引き出してくれるのです。
体験することで、新しい自分に出会う
教室で言語を学ぶとき、私たちは単語を身につけます。しかし、海外で言語を学ぶことは、その言語の世界観(コンテクスト)そのものを手に入れることを意味します。友人との会話からスラングを、音楽や映画から文化を、現地の人々から身振り手振りを、そして日々の暮らしから習慣を吸収する。その瞬間、あなたは言語を「話す」フェーズを超え、言語を「経験している」状態になります。
アイデンティティが最大限に成長するのは、まさにこうした実体験を通してです。
新しい言語を学ぶことは、これまでのあなたを否定したり、消し去ったりするものではありません。むしろ、あなたをより柔軟に、共感力を持ち、文化への意識が高い人間へと進化させてくれます。自信がつき、自分自身を新しい視点で捉え直すきっかけにもなるでしょう。もし、言語を切り替えるたびに「別人になったみたいだ」と感じるなら、それはあなたの世界が想像以上に広がっているという証拠です。
あなたが学ぶ一つひとつの言語が、新しいあなたの可能性を開きます。